桜を目当てに旅行を組もうとすると、誰もが同じところでつまずきます。「見頃がいつか分からないのに、宿だけ先に取っていいのか」という問題です。

この記事の結論は、開花予想は当てにしていいけれど、それがあなたの見たい桜の予想とは限らない、というところにあります。仕組みを知っておくと、日付を当てにいく旅から、外しても成立する旅に組み替えられます。

開花予想が指しているのは「標本木」1本の桜

まず、ニュースで流れる開花や満開の情報が何を指しているのかを整理しておきます。

標本木は気象台のすぐそばに置かれている

各地の開花・満開は、気象台や測候所が定めた「標本木」という1本の木を観測して発表されています。開花日は標本木で5〜6輪以上の花が咲いた最初の日、満開日はつぼみの80パーセント以上が開いた最初の日と定義されています。

見落とされがちなのが、その木がどこに立っているかです。気象庁の生物季節観測指針では、観測を行う場所について、気象官署からおおむね5キロメートル未満、標高差はおおむねプラスマイナス50メートル以内という条件が示されています。

つまり、発表されている開花日は「その県庁所在地の、平地の桜」の話です。「奈良が開花」という発表は奈良市の標本木の話であって、標高700メートルを超える吉野山の奥千本の話ではありません。「青森が開花」も、弘前公園の桜と数日ずれることがあります。

ニュースを見て「もう咲いたのか」と焦ったり、「まだか」と待ったりする前に、自分が行きたい場所と標本木の距離と高さを思い浮かべてみてください。それだけで、判断の精度がかなり変わります。

開花予想を出しているのは気象庁ではない

もうひとつ、意外に知られていないことがあります。気象庁は2010年に桜の開花予想の発表をやめており、現在の開花予想はすべて民間の気象会社が出しているものです。気象庁が今も続けているのは、標本木の「観測」のほうです。

そのため、会社によって予想の地点数も発表の時期も違います。標本木の数十地点に絞って発表するところもあれば、全国千か所規模の名所ごとに出すところもあります。「予想が各社で数日違う」のは、この違いによるところが大きいというわけです。第1回の発表は例年1月下旬から2月ごろ。ただし、名所単位の細かい予想が出そろうのは、もう少しあとになります。

ソメイヨシノが一斉に咲くのは、全部が同じ木の分身だから

標本木という「1本を見て地域全体を判断する」仕組みが成立しているのには、はっきりした理由があります。

接ぎ木でしか増やせない品種だから、揃って咲く

ソメイヨシノは自家不和合性が強く、種で増やすことができません。挿し木や接ぎ木でしか増やせないため、日本中のソメイヨシノは遺伝的にほぼ同一のクローンです。国立遺伝学研究所も、だから気象条件の同じ地域では一斉に開花する、と説明しています。

同じ遺伝子の木が同じ気候の下に並んでいれば、咲き始めも、満開も、散り始めもほぼ揃います。だからこそ、標本木1本を見れば周辺の桜の状態が推測できるわけです。

ヤマザクラやシダレは、そもそも揃って咲かない

ここが旅の計画に効いてきます。桜の名所として名高い場所ほど、ソメイヨシノ以外の桜であることが少なくありません。

たとえば吉野山はシロヤマザクラが中心です。野生種のヤマザクラは1本ずつ遺伝的に異なるため、同じ場所に立っていても咲くタイミングに幅が出ます。桜の研究者である森林総合研究所の勝木俊雄氏も、吉野山のヤマザクラを、花の大きさや色合いまで含めて多様性のある桜が鑑賞されている例として挙げています。

同じことは他の名所にも当てはまります。長野県の高遠城址公園はタカトオコヒガンザクラ、伊豆の河津桜はカワヅザクラで、いずれもソメイヨシノとは開花時期が違います。ソメイヨシノを基準にした予想をそのまま当てはめると、丸ごとずれます。

そして品種のばらつきは、旅行者にとっては悪い話ではありません。揃って咲かないということは、見頃の幅が広いということだからです。

見頃の「窓」は、思っているより長い

「桜は1週間で散る」というイメージがありますが、これも半分は誤解です。

日本気象協会の解説によれば、桜は咲き始めてからおおむね1週間で満開を迎えます。そして開花から10日ほどは花がしっかり付いているため、強い雨や風でもほとんど散りません。花吹雪になるのは開花から10日以上たってから。よほどの荒天がなければ、開花から3週間ほどは楽しめることが多く、気温が低ければ1か月近く持つこともあります。

散るのが早く感じるのは、ソメイヨシノが一斉に咲いて一斉に散るからで、1本の木で見ればむしろ花期は長いほうです。

ここから導けることは、はっきりしています。狙うべきは「満開の1日」ではなく、開花から2週間ほどの窓のどこかです。この考え方に切り替えると、宿を取る難易度が一段下がります。

外しても成立する取り方、3つの保険

そのうえで、実際に宿を取るときの具体策を3つ挙げます。

保険1:標高差のあるエリアを選ぶ

桜は標高が100メートル上がるごとに、開花が2〜3日ほど遅れるとされています。500メートルの高低差があるエリアなら、理屈のうえでは10日ほど見頃がずれることになります。

これは保険としてそのまま使えます。麓が散っていても山の上はこれから、山の上がまだでも麓は見頃、という状態が同じエリアの中に同居するからです。奈良の吉野山がその典型で、下千本から奥千本まで1週間から10日かけて満開が登っていきます。

標高で見頃を読むという発想は、紅葉の宿はいつ予約する?でも書いた通り、季節の旅全般に効く考え方です。

保険2:品種の違う桜を組み合わせる

早咲きのカワヅザクラは1月下旬から咲き始め、2月中旬から下旬が見頃です。一重で花びらが散りにくく、1か月以上楽しめるという性質があります。河津桜、宿はどこに取る?で詳しく書いた通り、桜の中では珍しく「日付を当てにいける」タイプです。

一方、弘前の桜のように北にある名所は4月下旬から5月初旬。全国の桜前線はおよそ1日20キロ前後の速さで北上していくので、日程が動かせないなら、その日程で見頃になる緯度と高さの名所を選ぶ、という順番でも旅は成立します。

「行きたい名所を決めてから日程を合わせる」だけでなく、「日程を決めてからその時期に咲く桜を選ぶ」という逆の組み立て方も、選択肢として持っておくと外しにくくなります。

保険3:取り直せる形で取る

それでも読み切れないのが桜です。だからこそ、取り直せる形で押さえておくのが実務的です。

具体的には、無料キャンセル期限が遅いプランを選んでおくこと。同じ宿でも、早期割引の特典が大きいプランほどキャンセル規定が厳しいことが多いので、割引率と規定はセットで見ます。ホテルのキャンセル料はいつから?で書いた通り、キャンセル料の起算日は宿によってかなり違います。

ひとつだけ注意点を。複数の日程で二重に予約を取って、あとで片方を消す、というやり方はおすすめしません。宿側は在庫を押さえて他のお客さんを断っているので、繁忙期にこれをやられると実害が出ます。取り直すなら、キャンセルしてから取り直す順番を守るのが筋です。

桜の宿は、予想より先に動く

最後に、タイミングの話をします。

開花予想の第1回発表は、早い会社で1月下旬。一見すると「予想を見てから宿を取る」順番が成立しそうに見えます。ところが実際には、桜の名所の宿はそれより前から動き始めます。

理由は在庫の少なさです。桜の名所は、有名であるほど周辺の宿泊キャパシティが需要に追いついていません。山の上や小さな町にある名所ほどこの傾向が強く、宿が十数軒しかない場所も珍しくありません。そういうところでは「安く取る」以前に「取れるかどうか」が勝負になります。

繁忙期に直前割が出にくい仕組みについては直前予約と早割はどっちがお得?で書いた通りですが、桜のシーズンはその典型です。予想を待つ理由がない以上、行く年と大まかな時期を決めた時点で押さえに行くのが合理的です。

宿の絶対数が多いエリアを拠点にして、名所へは日中に移動するという組み方なら、選択肢はぐっと増えます。この場合は掲載軒数の多いじゃらんのようなサイトで、名所からの距離を条件にして探すとまとめて比較できます。

まとめ

桜の旅の宿を取るときに、押さえておきたい点を整理します。

  • 発表される開花・満開は、気象台のそばに立つ標本木1本の観測。行きたい名所の見頃とは限らない
  • 開花予想を出しているのは気象庁ではなく民間の気象会社。地点数も発表時期も会社ごとに違う
  • ソメイヨシノは全国が同一クローンなので揃って咲く。ヤマザクラやシダレ、早咲き種は揃わないぶん、見頃の幅が広い
  • 開花から10日ほどは散りにくく、開花から3週間ほど楽しめることも多い。狙うのは「満開の1日」ではなく2週間ほどの窓
  • 保険は3つ。標高差のあるエリアを選ぶ、品種の違う名所を組み合わせる、取り直せる形で取る
  • 桜の名所の宿は開花予想より先に動く。予想を待つ理由はない

見頃を完璧に当てることは、誰にもできません。当てられないものを当てにいくのをやめて、外しても成立する形に組み替える。それが、桜の旅でいちばん確実な準備だと思います。

行きたい名所と時期の見当がついたら、楽天トラベルじゃらん一休.comなどで空室を見比べてみてください。同じエリアでも、宿の位置と価格帯は驚くほど幅があります。

よくある質問

Q. 桜の開花予想はどのくらい当たりますか?

近年の予想は精度が上がっていますが、発表時期が早いほど幅を持って見ておくのが安全です。開花予想は前年秋からの気温の推移をもとに計算されるため、直前の寒暖差が大きい年ほど日付が動きます。旅行の直前まで更新される情報なので、宿を押さえたあとも定期的に確認して、当日の行き先を微調整するのがおすすめです。

Q. 桜の宿は何か月前に取ればいいですか?

名所の規模と周辺の宿の数によります。宿泊施設が多い都市部が拠点なら数か月前でも選べますが、宿が十数軒しかないような山の上や小さな町の名所は、半年以上前から埋まり始めることがあります。目安としては、開花予想の発表を待たずに、行く年と時期を決めた段階で動くのが確実です。

Q. 見頃を外してしまったら、旅行はどうすればいいですか?

同じエリア内で標高の違う場所を探すのがいちばん現実的です。麓が散っていても、車や電車で1時間ほど登った先ではこれから見頃という場合があります。また、桜以外の目的も1つ用意しておくと、旅そのものが成立しなくなることを防げます。桜は当てられないものだと最初から織り込んでおくほうが、結果的に満足度は高くなります。