宿を予約するとき、キャンセル料の欄までしっかり読んでいる人は少ないと思います。「まあ数日前までなら大丈夫だろう」と思って予約して、あとで慌てる。よくある話です。

実はホテルのキャンセル料には、全国共通の相場というものがありません。国が示している雛形はありますが、そこに書かれているのは「いつを区切りにするか」だけで、何パーセント取るかは空欄です。この記事では、その仕組みと、予約前に確認しておくべきポイントを整理します。

キャンセル料に「全国共通の相場」はない

まず、いちばん大事な前提から。

宿泊のキャンセル料は、それぞれの宿が自分で決めています。根拠になるのは各宿の「宿泊約款」で、その雛形として観光庁が「モデル宿泊約款」というものを示しています。令和5年12月13日に改正された、最新のものが公開されています。

このモデル宿泊約款には、違約金を定める「別表第2」という表が入っています。ところが実際に見てみると、表の中の数字はすべて空欄です。「%は、基本宿泊料に対する違約金の比率です」という注記だけがあり、具体的な数字は各宿が埋める形になっています。

つまり、「前日なら何割」という業界共通のルールは存在しません。同じ街の同じ価格帯のホテルでも、前日キャンセルが無料のところと、5割かかるところが並んでいます。「たぶんこのくらいだろう」という思い込みが、いちばん危ないということです。

なお、モデル宿泊約款はあくまで雛形なので、実際に適用されるのはその宿が定めた約款です。宿によっては、より細かい独自の規定を持っています。

ホテルと旅館では、キャンセル料の刻みが違う

ここが意外と知られていないところです。モデル宿泊約款の別表第2は、ホテル用と旅館用で表そのものが分かれていて、区分の数が違います。

ホテル用は「不泊・当日・前日・9日前・20日前」の5区分。対して旅館用は「不泊・当日・前日・2日前・3日前・5日前・6日前・7日前・8日前・14日前・15日前・20日前・30日前」と、13区分もあります。

つまり雛形の段階で、旅館のほうがはるかに早い時期から、こまかくキャンセル料を設定できる作りになっているということです。

なぜかと考えると、宿泊業の中身の違いに行き着きます。素泊まり中心のホテルは、キャンセルが出ても部屋を売り直せる可能性が残ります。一方、夕食付きの旅館は、宿泊者の人数に合わせて食材を仕入れ、仲居さんの人数を組み、部屋の割り振りを決めています。前日に断られても食材は戻せませんし、そもそも1日に受けられる組数が少ないので、1組のキャンセルが売上に占める割合も大きくなります。

だから「ホテルの感覚で温泉旅館を予約する」と、思っていたより早い段階からキャンセル料が発生していた、ということが起こります。旅館を予約するときほど、キャンセル規定は先に読んでおいたほうがいいです。旅館の口コミの読み方については温泉旅館の口コミの読み方でも触れています。

予約前に見るべきは「何割か」より「いつからか」

キャンセル料というと割合に目が行きますが、旅の計画という意味で本当に効いてくるのは、発生しはじめる日のほうです。

予定が固まりきっていない段階で宿を押さえることは、旅行ではよくあります。連休や紅葉シーズンのように、予定より先に宿が埋まっていく時期はなおさらです。そういうときに大事なのは、安く取ることよりも「あとで動かせる形で取っておくこと」です。

具体的には、予約画面でこの3つを見ます。

1つ目は、キャンセル料が無料の期限。「◯日前まで無料」という部分です。2つ目は、その翌日から何割になるか。無料期間の直後がいきなり5割なのか、2割から段階的に上がるのかで、判断の余裕がまったく違います。3つ目は、そのプランが返金不可かどうかです。

早割や前払いの割引プランは、この表とは別建てで「予約成立後は返金不可」となっていることがあります。安いのには理由があって、宿の側から見ると、キャンセルされないことが確定している予約は在庫として計算できるので、その分を値引きに回せるわけです。安さと引き換えに柔軟性を手放している、という理解でいるとちょうどいいです。この考え方は直前予約と早割はどっちがお得?でも詳しく書いています。

予定が読めない旅なら、多少高くても無料キャンセル期限が遅いプランを選ぶ。逆に絶対に行くと決まっているなら、返金不可でも安いほうを取る。この使い分けができると、予約はかなり楽になります。連休の宿の取り方については秋の連休、宿はいつ予約する?、見頃が読めない紅葉の宿については紅葉の宿はいつ予約する?でも同じ考え方を扱っています。

見落としやすい3つのケース

割合と期限を確認していても、つまずきやすいパターンがあります。

泊数を減らしたときも、違約金はかかる

3泊の予約を1泊に減らす。これはキャンセルではなく変更のつもりでいる人が多いのですが、約款上はれっきとした「契約の一部解除」です。

モデル宿泊約款の別表第2には、注記としてこう書かれています。契約日数が短縮した場合は、その短縮日数にかかわらず1日分(初日)の違約金を収受する、と。2泊分減らしても違約金は1日分で済む、という読み方になりますが、逆に言えば「1泊減らしただけでもゼロにはならない」ということでもあります。

長めに押さえておいて後で削る、という取り方をする人は、この点を頭に入れておくといいです。

連絡なしの不泊は、いちばん重い扱いになる

表の中でいちばん左に置かれているのが「不泊」です。連絡せずに現れないケースで、多くの宿でここがもっとも高く設定されています。

モデル宿泊約款では、宿泊客が連絡をしないで当日の決められた時刻になっても到着しないとき、その契約は宿泊客によって解除されたものとみなして処理することがある、と定められています。そしてここに、実務上とても大事な但し書きがついています。あらかじめ到着予定時刻が明示されている場合は、その時刻から一定時間を経過した時刻を基準にする、というものです。

要するに、遅れそうなときに一本連絡を入れておくかどうかで、扱いが変わり得るということです。飛行機が遅れた、渋滞にはまった。そういうときは、着く見込みが立たなくても宿に電話を入れておく。これだけで結果が変わることがあります。宿の側も、来るのか来ないのかがわからない状態がいちばん困ります。

予約サイト経由なら、手続きもサイト側から

予約サイトで取った宿をやめるとき、宿に直接電話しただけでは手続きが完了しないことがあります。予約サイトのマイページから所定の操作をして、はじめてキャンセルが確定する仕組みになっているためです。

また、キャンセル規定の見え方や、宿とは別に設けられた条件がサイトごとに違うこともあります。同じ宿でも、サイトによってキャンセル無料の期限が違うケースは珍しくありません。各サイトの特徴はホテル予約サイトはどこが安い?にまとめていますが、海外系のサイトについてはBooking.comは国内旅行で使える?のほうで、宿ごとに条件の幅が大きい点にも触れています。

なお、予定が不確かだからといって同じ日に複数の宿を仮押さえするのは避けたいところです。宿の側から見ると、実際には来ない予約で部屋が埋まっている状態は、ほかのお客さんの予約を断る原因になります。取り直せる形で1つ取る、が誠実なやり方だと思います。

高すぎるキャンセル料と、宿の都合で泊まれないとき

最後に、知っておくと安心な2つの話を。

ひとつは、キャンセル料には法律上の上限の考え方があるということです。消費者契約法第9条第1項第1号では、契約の解除に伴って事業者に生じる「平均的な損害の額」を超える部分は無効とされています。宿泊料を超えるキャンセル料や、まだ十分に売り直せる時期なのに全額を請求する規定などは、この観点から問題になり得ると指摘されています。

ただし、何が平均的な損害にあたるかは個別の事情によって判断が分かれます。自分だけで「これは無効なはずだ」と決めて支払いを拒むのではなく、納得できない請求を受けたときは、消費者ホットライン(188)などの相談窓口に相談するのが現実的です。筆者は法律の専門家ではないので、具体的な判断は専門家や窓口に委ねてください。

もうひとつは逆のケースです。宿の側の都合で、予約した部屋が用意できないとき。モデル宿泊約款では、宿は宿泊客の了解を得たうえで、できる限り同じ条件の他の宿泊施設をあっ旋するものとされています。それもできない場合は、違約金相当額の補償料を支払う、とされています。

こういうことはめったに起きませんが、起きたときに「そういう決まりがある」と知っているかどうかで、その場の落ち着きがだいぶ違います。

予約前チェックリスト

予約ボタンを押す前に、ここだけは見ておくと安心です。

  • キャンセル料が無料の期限はいつまでか(割合より先に、この日付を見る)
  • 無料期間の翌日から何割になるか。段階的か、いきなり跳ね上がるか
  • そのプランが返金不可(予約成立後キャンセル不可)でないか
  • 旅館の場合、ホテルより早い時期から発生していないか
  • 予約サイト経由なら、キャンセルの手続き方法と締切時刻
  • 遅れそうなときの連絡先を、出発前にスマホに控えておく

まとめ

キャンセル料は、宿ごとに違います。国の雛形が決めているのは区分だけで、割合は各宿が埋めるものだからです。しかもホテルと旅館では、その区分の細かさ自体が違います。

だからこそ、予約するときに見るべきなのは「何割取られるか」よりも「いつから発生するか」です。予定がまだ固まっていない旅なら、無料キャンセル期限が遅いプランを選んでおく。それだけで、予定が動いたときのストレスがぐっと減ります。

そして、行けなくなったとわかった時点で早めに連絡を入れる。これはお金の話であると同時に、その日の部屋を待っている誰かのためでもあります。宿を探すときは、料金だけでなくキャンセル規定の欄も並べて、楽天トラベルじゃらん一休.comなどで見比べてみてください。予約のタイミングそのものについてはホテルの予約はいつが一番安い?もあわせてどうぞ。

よくある質問

Q. ホテルのキャンセル料は何日前から発生しますか?

宿によって異なり、共通の決まりはありません。観光庁のモデル宿泊約款では、ホテル用の区分が「不泊・当日・前日・9日前・20日前」、旅館用が「不泊・当日から30日前まで」の13区分と分かれていますが、それぞれの割合は空欄で、各宿が自分で設定する形になっています。当日のみ発生する宿もあれば、1ヶ月前から発生する宿もあります。予約画面のキャンセル規定を必ず確認してください。

Q. 3泊の予約を1泊に減らした場合もキャンセル料はかかりますか?

かかるのが原則です。モデル宿泊約款の違約金の表には、契約日数が短縮した場合は短縮日数にかかわらず1日分(初日)の違約金を収受する、という注記があります。2泊減らしても3泊減らしても違約金は1日分という計算ですが、1泊だけ減らした場合も無料にはならないということです。実際の扱いは宿の約款によるので、日程を短くする可能性があるなら、予約前に確認しておくと安心です。

Q. 連絡せずに泊まらなかった場合はどうなりますか?

いわゆる不泊(無断キャンセル)にあたり、多くの宿でもっとも高い割合が設定されています。モデル宿泊約款では、連絡がないまま当日の一定時刻を過ぎた場合、宿泊客が契約を解除したものとみなして処理することがあるとされています。ただし、あらかじめ到着予定時刻を伝えてある場合はその時刻を基準にする、という但し書きもあります。遅れそうなときは着く見込みが立たなくても一度連絡を入れておくと、扱いが変わることがあります。