九州で氷の景色が見られる、と言われてもあまりピンとこないかもしれません。

でも長崎県の雲仙は、標高およそ700メートルの高原にあります。冬になると、木々の枝に霧氷(むひょう)がつきます。過冷却された霧の粒が枝に触れた瞬間に凍りつく現象で、木全体が白い氷の花に包まれたようになります。

ただ、これには厄介な性質があります。霧氷は、日が高くなると溶けてしまうのです。

この記事では、九州で霧氷に会うために何が必要なのかを、雲仙という温泉地の成り立ちとあわせて整理します。

雲仙は、日本で最初に国立公園になった場所

まず、この場所の位置づけを押さえておきます。

雲仙が国立公園に指定されたのは1934年3月16日。瀬戸内海、霧島とともに、日本で最初に指定された国立公園の1つです。当時は雲仙国立公園という名称で、1956年に天草地区が編入されて、現在の雲仙天草国立公園になりました。

温泉地としての歴史はさらに古く、開湯は1300年ほど前と言われています。明治時代には外国人の避暑地として発展し、日本におけるリゾート地の草分けのひとつになりました。「雲仙」という漢字表記も、外国人向けの国際的な観光地として整備されていく過程で定着したものです。

温泉街は島原半島のほぼ中央、標高約700メートルの高原にあります。市街地の温泉街というより、火山と森に囲まれた高原リゾート、という表現がしっくりきます。

白い湯けむりが街のあちこちから立つ

雲仙のもうひとつの顔が、雲仙地獄です。

温泉街のすぐ隣で、地面のあちこちから絶え間なく噴気が上がっています。遊歩道が整備されていて、湯けむりの立つ荒涼とした一帯を歩いて回れます。

湯は硫酸酸性の硫黄泉で、白濁しています。源泉の最高温度は98度。主成分は鉄イオン、アルミニウムイオン、硫酸イオンで、強い酸性を示します。硫黄のにおいが街全体に漂っていて、温泉地に来たという実感がはっきりあります。

地獄の隣には屋根つきの足湯広場があり、自由に使えます。湯せんぺいや温泉たまごといった、地獄の熱を使った名物もあります。

霧氷は、朝しかない

ここからが本題です。

霧氷は、樹氷とは別のものです。蔵王の樹氷は、雪と氷が何日もかけて木に着き続けて巨大な塊に育ったもので、真冬のあいだ立ち続けています。

一方の霧氷は、もっと繊細で、もっと短命です。冷え込んだ夜に霧が発生し、その水滴が枝で凍りついてできる。細い枝先にまで白い結晶が並ぶ、氷の花のような姿になります。

そして、気温が上がれば溶けます。 朝は真っ白だった木が、昼前には普通の冬枯れの木に戻っている、ということが普通に起きます。

つまり霧氷を見るということは、「今朝できたものを、消える前に見に行く」ということです。

諫早から70分、バスは1時間に1便

この時間との勝負に、アクセスの条件が重くのしかかります。

雲仙温泉へのアクセスは、JR長崎本線の諫早駅から島原鉄道バスで約70分。島原鉄道の島原駅からなら約50分です。いずれもおおむね1時間に1便の運行で、長崎駅や長崎空港からは車でおよそ1時間半かかります。

霧氷を見るための展望台にあたるのが仁田峠です。温泉街のバスセンターから仁田峠までは乗合タクシー(中型バス)が出ていて、仁田峠から妙見岳の山頂へは雲仙ロープウェイが結んでいます。仁田峠は春のミヤマキリシマ、夏の新緑、秋の紅葉、そして冬の霧氷と、季節ごとに表情を変える場所です。

ここで計算してみてください。長崎市内を朝に出て、諫早へ出て、バスで70分かけて雲仙に着き、さらに仁田峠へ上がる。その頃には、もう昼に近い時間です。

前の晩に雲仙温泉の宿に泊まっていれば、話がまるで違います。朝起きて窓の外を見て、白くなっていたら動く。それだけのことですが、この判断は泊まっている人にしかできません。

道が閉まることもある

もうひとつ、冬に知っておくべきことがあります。

仁田峠へ向かう仁田峠循環道路は、悪天候の際に通行止めになることがあります。凍結や積雪、強風といった条件が重なりやすいのが、まさに霧氷のできる日でもあるわけです。

つまり霧氷を狙う旅は、条件が揃わないことのほうが多いと考えておいたほうがいい。だからこそ、1泊して2回チャンスを持つことに意味があります。訪問前には、雲仙お山の情報館や環境省の公式情報で、道路や登山道の状況を確認してください。登山道が土砂崩れで通行止めになっていることもあります。

霧氷が出なくても、損はしない

正直に書いておくと、霧氷は天候まかせです。行っても見られない日のほうが多いかもしれません。

ただ、雲仙という場所は、霧氷が出なくても十分に成立します。

雲仙地獄の噴気は、気温の低い冬ほど白く濃く立ちのぼります。硫黄のにおいと湯けむりに包まれた遊歩道は、冬こそ雰囲気が出ます。白濁の酸性硫黄泉に浸かれば、冷えた体が芯から温まります。標高700メートルの高原の、澄んだ冬の空気そのものが目当てになります。

「霧氷が見られたら儲けもの」くらいの気持ちで行くのが、たぶん正解です。期待を高く持ちすぎると、天候に振り回されて疲れます。

泊まるならどう考えるか

雲仙温泉の宿は、温泉街にまとまっています。地獄の周辺に旅館やホテルが並んでいて、どこに泊まっても地獄めぐりと足湯は徒歩圏です。

朝の仁田峠を狙うなら、雲仙温泉に泊まる一択です。他のどこから向かっても、朝の時間には間に合いません。

長崎市内と組み合わせるなら、順番を考えてください。市内から雲仙へ移動して泊まり、翌朝に仁田峠、というのが動線としては自然です。逆順にすると、朝のチャンスが消えます。長崎の冬といえばランタンフェスティバルもありますが、こちらは夜のイベントなので、「市内で夜のランタン、翌日に雲仙へ移動して泊まり、その翌朝に霧氷」という3日の組み方ができます。冬の長崎を一度で味わうなら、この順番が効率的です。

なお、島原半島には小浜温泉や島原の街もあります。雲仙から島原駅までバスで50分ほどなので、島原城や湧水の街を組み込むこともできます。ただし冬の朝を優先するなら、宿は雲仙に置いたままにしておくほうが確実です。

まとめ

  • 雲仙は1934年に指定された、日本で最初の国立公園のひとつ。標高約700メートルの高原リゾート
  • 雲仙地獄は硫酸酸性の硫黄泉で白濁。源泉の最高温度は98度
  • 霧氷は冷えた夜の霧が枝で凍ってできる。気温が上がれば溶けるため、見られるのは朝のうち
  • 諫早駅からバスで約70分、おおむね1時間に1便。日帰りでは朝の時間に間に合わない
  • 仁田峠循環道路は悪天候時に通行止めになることがある。事前確認は必須
  • 霧氷が出なくても、冬の地獄の噴気と白濁の湯で十分に成立する

朝の窓から白い山が見えたら動く。見えなければ温泉に浸かり直す。そういう選び方ができるのが、泊まるということの実質だと思います。

日程が決まったら、楽天トラベルじゃらんなどで、雲仙温泉の宿を見比べてみてください。標高700メートルの高原なので、市街地の温泉とは夜の冷え方がまるで違います。

よくある質問

Q. 九州でも霧氷は見られますか?

見られます。雲仙は標高約700メートルの高原にあり、冬には仁田峠周辺で霧氷がつきます。ただし東北や北陸の樹氷のように何日も残るものではなく、気温が上がれば溶けてしまいます。見られるかどうかはその日の冷え込みと霧の発生次第なので、確実に会えるものではありません。前日の夜から現地に泊まっておくと、朝の状況を見て判断できます。

Q. 雲仙へは車がないと行けませんか?

公共交通でも行けます。JR諫早駅から島原鉄道バスで約70分、島原鉄道の島原駅からは約50分で、いずれもおおむね1時間に1便が運行されています。仁田峠へは温泉街のバスセンターから乗合タクシーが出ています。ただし本数が限られるので、乗り継ぎの時刻を事前に確認しておくことが大切です。冬は雪や凍結もあるため、運転に慣れていない場合はむしろ公共交通のほうが安心かもしれません。

Q. 雲仙は何泊すればいいですか?

温泉と地獄めぐりだけなら1泊で十分です。地獄の遊歩道は1時間ほどで歩けますし、足湯や温泉街の散策もその日のうちに済みます。ただし仁田峠の霧氷を狙うなら、天候に左右されることを考えて2泊しておくと、チャンスが2回になります。時間に余裕があれば、島原や小浜温泉と組み合わせて島原半島を回るのもおすすめです。