滋賀の宿を探すとき、多くの人が「琵琶湖の見える宿」で検索します。ところがその条件で出てくる宿は、京都から10分の街から、雪が2メートル積もる町まで、まるで性格の違う場所に散らばっています。

琵琶湖は、思っているよりずっと大きいからです。この記事では、大津・近江八幡・彦根・長浜・高島という滋賀の宿泊エリアを、湖のどのあたりに位置するかという視点から整理します。

滋賀の宿選びは「湖のどのくらい北か」で決まる

まず、琵琶湖のスケール感を数字で押さえておきます。滋賀県の公式観光情報によると、湖の面積は約670平方キロメートル。これは滋賀県全体の面積の約6分の1にあたり、淡路島がすっぽり入る大きさです。

そして重要なのが、南北に細長いこと。いちばん長いところ(長軸)は63.49キロメートル、北端の長浜市西浅井町塩津から南端の大津市瀬田までの距離です。湖を1周する湖岸の延長は約235キロメートルで、これはほぼ大津から浜松までに相当します。

つまり「琵琶湖の近くに泊まる」という条件は、宿を絞り込む役に立ちません。同じ湖に面していても、南の端と北の端では別の旅になります。

京都から10分。それが滋賀の最大の武器であり、弱点でもある

滋賀のもうひとつの特徴が、京都との近さです。

JR大津駅は、京都駅から東海道本線(琵琶湖線)でわずか10分ほど。草津、近江八幡、彦根、長浜まで、新快速が乗り換えなしで走っています。京都から彦根までは約50分、長浜までは約1時間強です。湖西線を使えば、京都から近江今津まで新快速で約50分。

この近さのおかげで、滋賀は「京都の宿が高いとき、混んでいるときの受け皿」としてよく紹介されます。実際それは正しい使い方です。京都の宿エリア選びでも触れたとおり、京都は紅葉期や桜の時期に宿の価格が跳ね上がります。そのとき大津に泊まるのは、とても合理的な判断です。

ただ、その近さは同時に、滋賀が「通過される県」「日帰りされる県」になってきた理由でもあります。奈良も日帰りされがちな古都ですが、滋賀の場合はもっと極端で、そもそも観光地として意識されないまま新快速で通り過ぎられていきます。

滋賀に泊まる価値がいちばん出るのは、実は京都から遠ざかったところ、つまり湖北です。

北へ行くほど、気候が変わる

滋賀を旅する人が驚くのが、県内の気候差です。

京都新聞などの報道によると、長浜市は近畿以西で唯一、国の「特別豪雪地帯」に指定されています。さらに、米原市の伊吹山(標高1,377メートル)では1927年2月14日に積雪11メートル82センチが観測されており、これは山岳の観測記録として世界1位のまま今も破られていません。

なぜかというと、日本海の若狭湾から流れ込んだ雪雲が、伊吹山にぶつかって大量の雪を落とすからです。関ヶ原あたりで東海道新幹線や名神高速が雪で乱れるのも、同じ理由です。

だから冬に滋賀へ行くときは、「関西だから雪は大丈夫だろう」という感覚が通用しません。大津が晴れていても、長浜は雪、ということが普通に起きます。逆に言えば、雪景色を目当てにするなら湖北はねらい目です。

滋賀の宿泊エリアは、大きく4つ

大津・おごと温泉(湖南)— 京都との二拠点になる

滋賀でいちばん宿が多く、選択肢が広いエリアです。

大津駅・膳所・石山あたりは、京都まで10分前後という立地の良さが最大の武器。京都観光をしながら宿代を抑えたい人、あるいは京都の宿が取れなかった人の現実的な受け皿になります。市内には石山寺、三井寺、比叡山延暦寺の坂本側入口といった見どころもあり、「京都のついで」で終わらせるにはもったいないエリアでもあります。

温泉に泊まりたいなら、湖畔のおごと温泉(雄琴温泉)です。比叡山延暦寺を開いた最澄が開湯したと伝わる、およそ1,200年の歴史を持つ温泉地で、アルカリ性の湯は肌あたりのやわらかい美肌の湯として知られています。琵琶湖を望む露天風呂を持つ宿が多く、湖の向こうに日が沈む景色を部屋から眺められるのがこのエリアの特権です。

向いている旅行スタイル:京都とセットで動きたい、温泉旅館に泊まりたい、公共交通メイン、湖に沈む夕日を見たい。

近江八幡・彦根(湖東)— 城下町と水郷を歩く

湖の東岸、京都から40分から50分ほどのエリアです。

近江八幡は、豊臣秀次が開いた城下町で、八幡堀の水辺と白壁の蔵が残る町並みが見どころ。近江商人の本拠地として栄えた歴史があり、旧商家の建物が博物館として公開されています。バームクーヘンで知られる菓子メーカーの大規模な施設も、この町にあります。

彦根の主役は、もちろん彦根城です。姫路城、松本城、犬山城、松江城と並ぶ、天守が国宝に指定されている5城のひとつ。城下町の風情を再現した通りもあり、半日はゆうに過ごせます。

このエリアの宿は駅前のホテルが中心で、湖畔のリゾート型の宿は多くありません。「町歩きの拠点」として割り切ると使いやすいエリアです。

向いている旅行スタイル:歴史と城下町が好き、レンタカーなしで動きたい、宿泊費を抑えたい、大津と長浜の中間に構えたい。

長浜・木之本(湖北)— 泊まる意味がいちばん大きい

京都から新快速で1時間強。ここまで来ると、日帰りの手軽さは薄れます。だからこそ、泊まる価値が出るエリアです。

長浜は、豊臣秀吉が最初に城を持った町として知られ、駅周辺には黒壁スクエアと呼ばれるガラス工芸と町家の商業エリアが広がっています。冬には、日本一とも言われる規模の盆梅展が開かれ、関西の新春の風物詩になっています。この盆梅展については別の記事で詳しく書きました

さらに北へ進むと、木之本、余呉湖といった、いわゆる「奥琵琶湖」の静かなエリアに入ります。冬は雪深く、公共交通の本数も減りますが、その分だけ人の少ない景色に出会えます。

長浜の宿は、駅周辺のホテルと、湖畔の温泉旅館に分かれます。数はそれほど多くないので、盆梅展や桜のシーズンは早めに動いたほうが安全です。

向いている旅行スタイル:静かな町歩き、雪景色を見たい、名古屋方面からアクセスする、混雑を避けたい。

高島・マキノ(湖西)— 車がある人のためのエリア

湖の西岸、京都から湖西線で40分から50分ほどのエリアです。

有名なのが、マキノのメタセコイア並木。マキノピックランドからマキノ高原へ続く道路沿いに、約2.4キロメートルにわたって約500本のメタセコイアが並びます。1981年に地元の果樹生産組合が植えたのが始まりで、1994年には読売新聞社の「新・日本の街路樹100景」に選ばれました。秋の紅葉が有名ですが、葉を落とした冬の裸木に雪が乗る景色も、この並木ならではです。

もうひとつが、高島市の白鬚神社。湖の中に朱塗りの大鳥居が立つ、近江最古とされる神社です。ここで注意したいのが、社殿と湖中の鳥居のあいだを国道161号が通っていること。高島市も観光協会も「国道の横断は大変危険なのでご遠慮ください」と明確に呼びかけていて、鳥居を撮影する場合は社務所前に設置された展望台「藍湖白鬚台」を使うよう案内しています。写真のために道路を渡らないでください。

湖西は鉄道の駅からスポットまでが遠く、バスの本数も限られます。レンタカー前提で考えるエリアです。

向いている旅行スタイル:ドライブが目的、写真を撮りたい、静かな湖畔で過ごしたい、車を運転する。

目的別に見る、滋賀の泊まり方

  • 京都観光と組み合わせたい、宿代を抑えたい → 大津
  • 温泉旅館でゆっくり、湖に沈む夕日 → おごと温泉
  • 城と城下町を歩きたい → 彦根
  • 水郷と近江商人の町 → 近江八幡
  • 雪景色、静けさ、盆梅展 → 長浜・木之本
  • メタセコイア並木や白鬚神社をドライブで → 高島・マキノ

迷ったときの目安は単純です。車がないなら大津から彦根までの湖東ライン、車があるなら湖西と湖北まで視野に入る。滋賀は鉄道の幹線が湖の南東側に集中しているので、この線引きがそのまま行動範囲になります。

日程別の組み立て方

1泊2日なら、南か北かに絞る

滋賀は細長いので、1泊で県内を縦断しようとすると新快速に乗っている時間ばかりが増えます。

南に絞るなら、大津かおごと温泉に泊まって、比叡山・石山寺・近江八幡あたりを回る形。北に絞るなら、長浜に泊まって黒壁スクエアと湖北を歩く形です。京都と組み合わせるなら前者、滋賀そのものを味わうなら後者になります。

2泊3日なら、南から北へ一方向に

宿を1回だけ動かすなら、1泊目に大津かおごと温泉、2泊目に長浜という順番が自然です。京都方面から入って、湖の東岸を北上していくルートになります。

逆に名古屋方面から入るなら、米原経由で長浜が先、大津が後という逆順のほうがスムーズです。米原駅は東海道新幹線が停まるので、東からのアクセスはむしろ湖北のほうが早いくらいです。

ビワイチ(琵琶湖一周サイクリング)を考えているなら

湖岸を1周する約235キロメートルのサイクリングルートは、健脚の人でも2日、ゆっくりなら3日かけるのが一般的です。1日で走り切るプランは、日照時間の短い冬にはおすすめできません。

宿は、初日の到達地点になりやすい湖北(長浜・木之本)か湖西(近江今津・マキノ)に取ることになります。この場合も、早めに予約を押さえるほうが選択肢が残ります。

滋賀の宿を探すときのコツ

滋賀は、大津周辺を除くと宿の総数がそれほど多くありません。探し方で結果がけっこう変わります。

まず、「滋賀県」ではなく市町名で検索すること。「滋賀」で検索すると大津・草津周辺のビジネスホテルが大量に出てきて、湖北や湖西の宿が埋もれます。「長浜」「おごと温泉」「マキノ」のように絞ったほうが、実際の候補が見えます。

次に、「琵琶湖が見える」の中身を確認すること。同じ湖畔の宿でも、部屋から一面に湖が広がる宿と、木立の隙間から見える宿があります。写真だけでなく、部屋タイプの名前と説明文を読むと違いが分かります。

予約サイトは、温泉旅館の品揃えならじゃらん、湖畔の宿でワンランク上を狙うなら一休.comというように使い分けると探しやすくなります。大津周辺は外資系や国際的なチェーンの掲載もあるので、Booking.comのような海外系サイトを横断してみると、思わぬ条件が見つかることもあります。

まとめ

  • 琵琶湖は南北63キロメートル。「琵琶湖の見える宿」だけでは絞り込めない
  • 大津は京都から約10分。京都観光の受け皿として合理的
  • 長浜市は近畿以西で唯一の特別豪雪地帯。冬は「関西の感覚」が通用しない
  • 車がないなら湖東ライン(大津〜彦根)、車があるなら湖西・湖北まで
  • 白鬚神社では国道を横断しない。展望台から撮影する

滋賀は、京都から近すぎるせいで「泊まる県」として認識されてこなかった場所です。でも新快速で1時間北へ行けば、雪の降る静かな町があります。近いのに知られていない、というのは旅行者にとってはむしろ好条件です。

エリアの目星がついたら、楽天トラベルじゃらん一休.comなどで、市町名に絞って見比べてみてください。同じ琵琶湖畔でも、南と北ではまったく違う夜が待っています。

よくある質問

Q. 京都観光の拠点として、滋賀に泊まるのはありですか?

大津周辺ならありです。JR大津駅から京都駅までは10分ほどで、朝夕の移動も苦になりません。京都市内の宿が高騰する紅葉期や桜の時期には、有力な選択肢になります。ただし、彦根より北になると京都まで40分以上かかるので、京都観光の拠点としては現実的ではありません。滋賀そのものを楽しむための宿、と割り切ったほうがいいエリアです。

Q. 滋賀観光にレンタカーは必要ですか?

行き先次第です。大津、近江八幡、彦根、長浜はいずれもJRの駅から徒歩圏に見どころがあるので、鉄道だけでも十分回れます。一方、高島市のメタセコイア並木や白鬚神社、奥琵琶湖の湖岸線などは、駅から距離があり路線バスの本数も限られます。湖西・奥琵琶湖まで足を伸ばすなら、レンタカーがあったほうが快適です。

Q. 冬に滋賀へ行くとき、気をつけることはありますか?

北へ行くほど雪が深くなることを前提に計画してください。長浜市は近畿以西で唯一の特別豪雪地帯に指定されており、大津が晴れていても湖北は雪、という日があります。車で行くならスタッドレスタイヤやチェーンが必要ですし、鉄道も積雪や強風で遅れることがあります。冬に湖北や湖西を訪れる予定なら、当日の運行状況と道路情報を確認してから動くと安心です。