東京駅の丸の内駅舎に入って、ドームの天井を見上げたことがあるでしょうか。そこには干支のレリーフが飾られています。ただし、8つしかありません。
十二支なのに8つ。長いあいだ、なぜ4つ足りないのかは謎とされてきました。その答えが佐賀県の武雄温泉にある、というのがこの記事の話です。しかも、その4つを見られるのは1日のうち朝の1時間だけです。
東京駅に足りない4つの干支は、武雄にある
武雄温泉の入口には、朱塗りの楼門が立っています。竜宮城を思わせる形から竜宮門とも呼ばれる建物で、大正4年(1915年)の完成。国の重要文化財です。
設計したのは辰野金吾。東京駅の丸の内駅舎や日本銀行本店を手がけた、日本近代建築の父と呼ばれる人物で、佐賀県唐津市の出身です。楼門は釘を1本も使わずに組まれていて、天平式楼門と呼ばれています。
2013年の保存修理工事のときに、楼門2階の天井の四隅から彫り絵が見つかりました。子(ねずみ)、卯(うさぎ)、午(うま)、酉(とり)の4つ。 方角でいえば北、東、南、西にあたります。
東京駅にある8つと、武雄にある4つ。合わせると十二支が揃います。
辰野が何を考えてこうしたのかは分かっていません。遊び心だったとも、風水的な意図があったとも言われますが、本人が書き残していないので推測にとどまります。ただ、東京駅と佐賀の温泉地が、100年前の建築家の手で天井を通じてつながっているという事実だけは残りました。
その4つが見られるのは、朝9時から10時までの1時間だけ
ここからが本題です。
楼門の2階は普段は入れません。見られるのは、武雄市観光協会が実施している「楼門干支見学会」のときだけです。そして、この見学会の条件がなかなか厳しい。
- 時間:午前9時から午前10時まで(受付は9時30分まで)
- 毎週火曜は休み
- 1回あたり約15〜20分、1回20名程度
- 見学料:一般は大人500円・子ども250円(元湯の入浴券付き)
- 観光ボランティアガイドの解説付き
公式の案内にも「朝1時間だけの限定公開」と書かれています。武雄市観光協会が展開している「武雄で朝活」というプログラムのひとつという位置づけです。
つまり、昼過ぎに武雄へ着いた人は、その日はもう2階に上がれません。 温泉に入って楼門を外から眺めて帰る、ということになります。
公式の料金表に「前泊者」という区分がある
もうひとつ、見逃せない事実があります。見学料の設定を、もう一度よく見てください。
- 一般:大人500円、子ども250円(元湯入浴券付き)
- 町内宿泊施設前泊者(宿泊日の翌日見学):大人400円、子ども150円(入浴券なし)
「前泊者」という区分が、公式の料金表に存在します。
差額そのものは100円ほどで、金額としては大きくありません。ただ、ここで重要なのは金額ではなく、武雄市が「前の晩に町に泊まって、翌朝ここへ来る人」を制度として想定しているということです。
朝9時から10時までという時間設定は、日帰り客を締め出すために作られたわけではないでしょう。おそらくは文化財の保護と、朝の温泉街に人の流れを作りたいという意図の結果です。それでも、結果として生まれた構造ははっきりしています。この扉が開いている時間に楼門の前に立てるのは、前の晩から武雄にいる人です。
日帰り客が去ったあと、あるいは着く前の時間に本番が来るという構造は、黒川温泉は泊まるべき?や高千穂は泊まるべき?でも書いた通りです。武雄の場合は、それが「夜」ではなく「朝の1時間」に置かれているのが特徴になります。
朝6時30分から開く、日本最古の木造浴場
朝が主役なのは、干支だけではありません。
楼門をくぐった先には、いくつかの浴場があります。なかでも元湯は明治9年(1876年)の建築で、現在も使われている木造の温泉施設としては日本最古とされています。
- 元湯:朝6時30分から深夜まで営業、入浴料400円ほど
- あつ湯とぬる湯の2つの浴槽があり、あつ湯は45度前後、ぬる湯でも42度前後
- 隣接する鷺乃湯には露天風呂とサウナがある(740円ほど)
- 殿様湯・家老湯といった貸切風呂もある
泉質はアルカリ性単純温泉で、源泉温度は約52度。無色透明でさらりとした湯です。肌がしっとりすることから「美人の湯」とも呼ばれてきました。
朝6時30分から入れるというのが効いてきます。干支見学会が9時からなので、朝風呂に入ってから見学に向かう、という組み方が自然にできます。しかも見学料500円には元湯の入浴券が付いているので、順番としては「入浴券を買う→2階を見学する→湯に入る」という流れになります(見学に入浴券が必要なため、必ず入浴前に見学してください)。
あつ湯の45度は、慣れていないとかなり厳しい温度です。無理をせず、ぬる湯から入るのが現実的だと思います。
なお毎週日曜の朝には楼門朝市も開かれています。時間は朝7時30分から(1月から3月は8時から10時)。日曜に泊まっていれば、朝市、朝風呂、干支見学が一続きになります。
泊まると、朝がまるごと1つのコースになる
ここまでを時間順に並べると、武雄に泊まる意味がはっきりします。
- 6時30分:元湯が開く。朝いちばんの湯に入れる(見学予定があるなら入浴券だけ先に買っておく)
- 7時30分〜:日曜なら楼門朝市
- 9時〜10時:楼門干支見学会。2階に上がって4つの干支を見る
- そのあと:湯に入って、朝食へ
日帰りだと、この流れは1つも組めません。 博多から武雄温泉までリレーかもめで約1時間なので、朝いちばんの列車で来れば見学会には間に合わないこともないのですが、9時30分の受付締切と火曜休みという条件があるうえ、朝風呂と朝市は完全に射程の外です。まして関西や関東から来るなら、日帰りでこの時間帯に立つ手段はありません。
武雄温泉駅は西九州新幹線とリレーかもめの乗換駅で、駅から温泉街までは徒歩10分ほど。荷物を持って歩ける距離なので、前泊のハードルは低いほうです。佐賀のほかのエリアとの兼ね合いは、別記事「佐賀はどこに泊まる?」で整理しています。
泊まるときに知っておきたいこと
- 見学会は令和9年3月31日まで実施予定。以降は要確認です
- 火曜は休み。旅程を組むときの最初のチェックポイントになります
- 1回20名程度なので、混む日は早めに並ぶのが安心です
- 楼門の階段はかなり急です。足元に不安がある場合は無理をしないでください
- 見学時は禁煙・飲食禁止で、傘や杖は持ち込めません
時間・料金・実施期間はいずれも変わることがあります。出発前に武雄市観光協会の公式サイトで、その時点の情報を確認してください。
まとめ
武雄温泉と宿泊の関係を整理します。
- 東京駅のドーム天井には干支が8つ。残りの4つ(子・卯・午・酉)は武雄温泉楼門の2階にある
- 設計者はどちらも辰野金吾。合わせて十二支が揃う
- 楼門2階を見られるのは「楼門干支見学会」のときだけ。午前9時から10時、受付は9時30分まで、火曜休み、1回20名程度
- 公式の見学料に「町内宿泊施設前泊者」の区分がある。前泊は制度に織り込まれている
- 元湯は朝6時30分から。明治9年築で、現存する木造の温泉施設としては日本最古
- 泊まれば朝風呂・朝市(日曜)・干支見学が一続きのコースになる
温泉地としての武雄は、派手さのある場所ではありません。ただ、100年前の建築家が仕掛けた謎の答えが、朝の1時間だけ開く扉の向こうにある。そういう町は、そう多くないと思います。
宿の目星がついたら、楽天トラベルやじゃらん、一休.comなどで空室を見比べてみてください。駅から徒歩圏か、温泉街の中かで、朝の動きやすさが変わります。
よくある質問
Q. 楼門の干支は、いつでも見られますか?
見られません。楼門2階は普段は非公開で、「楼門干支見学会」が行われる午前9時から10時(受付は9時30分まで)のあいだだけ上がれます。毎週火曜は休みで、1回あたり20名程度、所要は15〜20分ほどです。見学には入浴券の購入が必要なため、必ず入浴前に見学してください。実施期間や時間は変わることがあるので、武雄市観光協会の公式サイトで最新の情報を確認してください。
Q. 武雄温泉は日帰りでも楽しめますか?
温泉に入るだけなら日帰りでも楽しめます。武雄温泉駅から温泉街まで徒歩10分ほどで、元湯をはじめとする浴場は夜まで営業しています。ただし楼門干支見学会は午前9時から10時の1時間だけ、朝風呂は6時30分から、日曜の楼門朝市は7時30分からと、見どころが朝に集中しています。この時間帯に合わせて動けるかどうかが、日帰りか宿泊かの分かれ目になります。
Q. 元湯のお湯は熱いと聞きましたが、大丈夫でしょうか?
元湯にはあつ湯とぬる湯の2つの浴槽があり、あつ湯は45度前後とかなり熱めです。慣れていない場合は、42度前後のぬる湯から入るのが無難です。それでも一般的な浴槽より熱いので、体調と相談しながら短めに入るのがおすすめです。露天風呂やサウナのある鷺乃湯は湯温が比較的おだやかなので、そちらから始めるという選び方もあります。




